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中小企業に特化した現役経営者による投資ファンド「SCOM」2019年10月に誕生!コンセプトは「沖縄で1万人のくらしを変えていく」

2019年12月13日

中小企業に特化した現役経営者による投資ファンド「SCOM」2019年10月に誕生!

2019年10月、県内の経営者たちが参画する、新しい形の投資ファンド「SCOM(エスコン)株式会社」が誕生した。

設立メンバーは、SCOMを設立した琉球オフィスサービス藤本和之(ふじもと かずゆき)代表をはじめ、株式会社フードアンドライフ上間 喜壽(うえま よしかず)社長、Payke共同創業者の比嘉良寛(ひが よしひろ)取締役の3名だ。

沖縄を代表するWEB制作会社「琉球オフィスサービス」、負債2億を黒字に展開し、最近は全国のコンビニ進出でも話題の『上間てんぷら』を手がける「上間フードアンドライフ」、2015年にリリースし、今では日本を代表するサービスにも選ばれている「Payke(ペイク)」と、いまリアルに沖縄を盛り上げているメンバーが揃っており、注目の投資ファンドとなるだろう。

今回なぜこのメンバーで投資ファンドを立ち上げたのか、そして気になる出資の条件は?一般的な投資会社とは何が違うのかなど、投資に疎いライターが取材!投資に疎い人間にも分かるように丁寧に解説いただいたので、苦手意識がある方もぜひこの機会に理解を深めてみてはいかがだろう。

経営に悩み、苦しんできた3名の実経験による「投資の仕組み」

経営に悩み、苦しんできた3名の実経験による「投資の仕組み」

(左)比嘉良寛さん/(中央)藤本和之さん/(右)上間 喜壽さん

一般的に「投資ファンド」とは、複数の投資家から集めた資金を用いて出資し、そのリターンを分配するという仕組みで成り立っている。SCOMも資金調達の面では一般的な投資ファンドと同じ仕組みだが、投資先や収益モデル、そしてハンズオン支援(経営支援)の形態に新規性と独自性があるという。

藤本さん「まず、僕たちはベンチャーやスタートアップではなく、中小零細企業だけに出資を行います。出資というと『ベンチャーキャピタル』のイメージが強いかもしれませんが、少しだけ仕組みが違います。」

藤本さんにお聞きした一般的なベンチャーキャピタルとSCOMの違いを、以下に説明する。

【ベンチャーキャピタル】
数多くの出資先のスタートアップ企業の中から少数の成功に依存するスタイルが主。株式上場もしくは大手企業に当初の何十倍~何百倍もの価格で売却するM&Aなどの『出口戦略』が大半となる。収益の見込み期間は7~8年を超える場合が多い。

【SCOM】
沖縄県内の中小零細企業が対象。最大10社の沖縄県内企業に出資し、成長率は2~3倍を目指す。収益の見込み期間は2~3年と、ベンチャーキャピタルよりも短いことが特徴。また、2~3年経過し、株価が上がった際に、株式上場やM&Aではなく、投資先の会社に買い戻してもらうことが最大の違い。

藤本さん「例えば、投資先の企業価値が1億円だったとして、1千万円を出資することにより10%の株を取得します。そして経営に僕たちが関与して、企業価値を1億円から2億円にすることを目指します。そしたら僕たちが所有している10%の値打ちが1千万から2千万円になる。それが僕らの収益になる、というわけです。」

「SCOM」とは?

ー株取引のようなイメージですか?

藤本さん「そうですね!一般的な株取引との違いは、上場していない株式を会社から買うというところです。」

ー経営に関与するということは、コンサルタントの役割も担っているということですか?

藤本さん「似ていますが、仕組みが違います。違いは2つあって、ひとつは僕たちがリスクを取っていること。例えば1千万円をその会社に投資して、その会社が倒産したら1千万円が僕たちの会社からなくなります。その会社の成長に僕たちの利益は完全に依存していて、結果が出ればもちろん利益が出るけれど、結果が出なければ共倒れですよね。」

SCOMが行う投資は「投資先と利害関係を一致させ、共にリスクを取る本気のコミットメントの上で行われる支援」。結果がでないと収益はないため、必然的に経営にも本気で向き合っていくスタイルとなる。

藤本さん「2つめの違いは、僕たち3人が現在進行形で経営で悩み、苦しんでもいる現役の経営者だということです。人事で悩みもするし、資金繰りで死にかけたこともある。経営ってすごく生々しいもので、精神的にも大変なものです。もちろん経営経験があるからいいというわけではないと思いますが、同じ立場で腐るほど苦しい経験をしている僕らだからこそできる『サポート』があると思うんです。」

SCOMが目指すのは「1万人のくらしを変えていく」こと

(仕事の話になると話が止まらなくなるという3人。昨日も夜中まで仕事の話をしていたそう。)

SCOMが目指すのは「1万人のくらしを変えていく」こと

SCOMは、ビジョンとして「沖縄で1万人のくらしを変えていく。」を掲げる。その手法として、沖縄の中小零細企業に対し、現代的経営を導入することで「収益力」と「還元力」を上げていく。そのための具体的な数字も提示している。

「10年でより良い経営ができる会社を100社生み出し、5000人の従業員所得を引き上げ、1万人の生活を豊かにすること。」

たとえば「琉球オフィスサービス」のように、平均給与が40万円以上でありながら、残業がなく有休消化率が100%のWEB企業。たとえば「上間フードアンドライフ」のように、女性役員が活躍し、女性社員の給与水準が20~30万円という飲食企業。たとえば「Payke」のように、20代の経営陣が世界を相手にビジネスを行い、給与も全国水準以上のベンチャー企業。

SCOMの投資は基本的にハンズオン支援(経営支援)。投資先のマネジメントに任せる「ハンズオフ」とは異なり、実務経験があるメンバーが投資先の経営に介入することで、企業価値を共に上げていくというもの。

藤本さん「苦手なことを自分だけでやるのも不可能ではないですが、どうしてもスピードが出ませんし、ひとりだと課題に気づきさえしないこともある。外部だからこそ見えることは少なくありません。なので、できれば経営は信頼でき、コミットしてくれる仲間にうまく力を借りるのが良いと思っています。うちが困ってることは、比嘉さんや上間さんが解決できることだったりするし、僕の会社では呼吸をするようにやっていること(制度やシステム)を、ただそのまま移植するだけで解決することもある。ただ技術や発想がなかっただけ、というのはどこの会社にもあることだと思っています。」

藤本さんは、企業価値を高めるためには、外部の新鮮な意見や手法をうまく取り入れるのが最短だと考える。SCOMのメンバーはみな同じ共通認識を持っており、互いの決算書を見せ合いながら、それぞれの会社について議論することも多いのだそうだ。

それぞれの強みを活かした経営支援

それぞれの強みを活かした経営支援

投資先の経営に関わるのは、経営の経験があり、尚且つそれぞれが違った強みを持つメンバーだ。

藤本さん:BtoBのプロであり、人事戦略や営業組織作りを得意とする
上間さん:上間天ぷらの経営を活かしたBtoCや管理体制の仕組み作りを得意とする
比嘉さん:ITや観光、マーケティングに強く、No.2の視点から調整を得意とする

そしてメンバー全員に共通するのは「財務」「数字」に強いということ。

実はSCOMの業態は、藤本さんの中で3年前から構想があった。ずっとやりたかったと話す藤本さんは、このメンバー選定が一番重要だったという。

藤本さん「以前僕だけでやってみたことがあるんですけど、これが全然うまくいかなかったんですよ。その時ダメだった原因は大きく分けて2つありました。ひとつは、僕の会社にできることが少なかったこと。そもそも利益が少なかったので、投資できるのも数百万。“何がついてくるの?”に対しても『僕がついてきます』だけ(笑)。相手からしたら『お前だけかい!』ってなりますよね。」

一番重要だったメンバー選定

ずっとやりたいと思っていたが、信頼や能力、知名度、お金・・足りないと感じるものが多く、仲間を探し続けていた藤本さん。

藤本さん「力不足だと感じたのが当時のステージでした。で、保留にしたんですけど、やりたい気持ちはずっとあって。結局、僕個人の能力だと投資先への貢献が小さすぎるので、能力が高く、信頼できる仲間が必要だと考えていました。」

そんな中3年が経過し、上間さん・比嘉さんと出会ったのは今年(2019年)開催されたオフ会だった。何度か会って話をするうちに、藤本さんの中に『このふたりがまさに探していた仲間だ』という感情が芽生え、声をかけたという。

上間さん「僕と比嘉さんが声をかけていただき、返事をした翌週には僕らの顔写真が入った資料が完成していて驚きました(笑)。藤本さん、恐ろしいスピードなんですよ。めちゃくちゃ早くて。これは本気だなと。」

藤本さん「ずっとやりたいことは決まってて、資料もほぼ完成してましたからね。足りないのは“能力が高くて、心の美しい仲間”だけだったので、その仲間が決まったら早かったです。」

SCOMの仲間が決まったら早かった

(「心の美しい人」というワードを強調して話す藤本さん)

ーなぜ心のキレイな人が良かったんですか?

藤本さん「大前提として、先ほど事業はひとりよりも、仲間とやったほうが強くて早いと話しましたが、とはいえ利益が絡むので、“誰とやるか”の相手選びが一番難しいんですよ。いくら信頼できて能力があっても、やはり上手くいかないときもあるし、意見が割れるときも必ずありますので。そうなった時に解決できる想像ができる相手ってなかなかいないんですよ。ただ、この2人とは、お金で揉める気は1ミリもしなかったんです。」

藤本さんは「お金のことを無視してる人はダメだ」という前提のもと、お金の重要性を分かった上でお金に囚われていない人じゃないと、SCOMのビジネスモデルを一緒にやるのは難しいと考えた。

上間さん「確かにお金のこと真剣に考えるのって、とてもめんどくさいことなんですよね。実際お金のことを真剣に考えるのはお金が大好きな人。けどお金が大好きな人は、過去にとてもお金に苦労していたりとか、お金に対してトラウマを抱えているケースが多かったりするんです。お金は大事だけどそのために動くタイプではないという点は、3人に共通してるかもしれません。」

お金の重要性を分かった上でお金に囚われていない人

比嘉さん「財務の価値観と数字に強いというのは3人が共通するところですね。お金の価値観はめちゃくちゃ似てると思いますし、2人とも決算書がめちゃくちゃキレイなんですよ。」

財務の価値観と数字に強いというのは3人が共通するところ

ー(上間さん・比嘉さんに対して)誘われたとき、どう思いましたか?

上間さん「実は僕も、藤本さんとは違うケースで個人でやろうと思っていたんです。僕はコンサルタントの事業も持っているのですが、コンサルに入ることで改善して数か月で売上が3倍になった会社があったんです。もっと企業価値が上がると感じて、その会社に投資を打診したんですけど、断られてしまって。僕は、企業×企業でより相乗効果が出るものだと思っています。けれど『会社はわたしのもの』と、客観的に事業を捉えれていない経営者は多い。その垣根を超えていければ沖縄はもっと良くなっていくと思いました。そのタイミングで藤本さんから話がきたので『是非やりたい』と返事をしたんです。」

『経営者はコミュニティで育つ』

比嘉さん「実は僕は、最初は断ろうと思っていました。僕からすると2人は大先輩でしたし、そもそもBtoBとBtoCのプロが揃っているのに『俺いるのか?』って(笑)。ただ、自分の仕事をしている中で感じてたことがあって。それは従業員は組織の中で育っていくけど、『経営者はコミュニティで育つ』ということです。どんな経営者軍といるかで変わるし、毎年新しい何かをアップデートしなくてはいけない。だからSCOMのやり方は面白いと思ったし、僕自身が2人といることで成長に繋がると感じました。あと、会社のNo.2って会社のコアを占める部分で悩んでいることが多くて、人に相談できないんですよ。僕はNo.2の立場から話ができるので、No.1が2人いて、実は見えづらいNo.2を語れる人間が1人いるというのは、ちょうどいいのかなと思ったのもあります。」

投資相手の見極めポイントは「沖縄」×「人」×「事業」

投資相手の見極めポイントは「沖縄」×「人」×「事業」

ここで気になる投資相手の条件を教えていただいた。まずは投資相手の決め方について。

ー投資相手の合否は全員で決めるんですか?

藤本さん「まず僕やファンドマネージャーを担当してくれているメンバーが接触し、最終的には3名で決めます。これまで数十社と面談をさせていただき、最終的な面談までさせていただいたのは5社前後という感じです。」

ーずばり、投資相手の条件はなんでしょうか?

藤本さん「大前提として沖縄でビジネスを行っていることがありますが、それ以外に重要視している出資の要件が3つあります。」

藤本さんが話す「出資の要件は以下。

  1. ①代表者の『資質』:中でもどれだけ事業に没頭できる人かを非常に重視する。
  2. ②事業の『内容』:その領域で県内トップを目指せる事業か。
  3. ③企業の『成長性』:市場が十分に大きいか、大手との競争に巻き込まれないか、など。

藤本さん「僕たちが共通して感じているのは『中小企業が楽して成長することはない』ということです。後退はもちろん、前に進む時も苦しいんですよ。急に拡大すると資金繰りが苦しくなったり、組織のサイズが大きくなると、それに応じて課題の種類も変わっていく。その時に『こんなはずじゃなかった』と、諦めずに変化に適応していく人じゃないと難しいと思います。」

審査の方法

審査の方法は様々だ。これまでの業績を見るのはもちろん、現場を視察し、働くスタッフにヒアリングを行い、競合や市場についても検討を重ねながら、3人がそれぞれの観点で見極め、議論し、決めていく。

「沖縄でビジネスを行っていること」という条件について尋ねると、沖縄は面白い場所だということと、ビジョンに重要なことだからだと話す。

沖縄でビジネスを行っていること

藤本さん「僕はこれまで、仕事の都合で地方を転々としてるんですけど、沖縄は恵まれた土地だと思います。人口が増えてる地方があまりない中で、沖縄は続々人が集まってくる。移住者も増えるし全国から観光に人が来る。みんな『沖縄』というだけでときめくって、すごいことじゃないですか。」

恵まれた土地、それを活かしきれていないのはなぜかということを考えた時に、中小企業の成長が浮かんだ藤本さん。利益率が高いわけではない沖縄の企業だが、人が安く雇えていたことで賄えていたのだと考察する。

藤本さん「これまで人が増え、失業率も高かった沖縄では、安く人を雇っても商売が維持できる環境が過去10年20年続いてきました。固定給が13万円で雇えていたというのがすごいこと。ですが、その環境はすでに終わっていて、今後5年10年で沖縄はどんどん人が採りづらくなり、維持しづらくなると思っています。」

これまでは「給料はこんなもんだ」に経営者が依存して、店を出して一生懸命頑張っていればなんとかなっていた。そしてその形態をロールモデルに店を始める人も多かったという。

藤本さん「競争が激しくそこで生き残るために知恵を絞る都市部の会社と、比較的競争の少ない環境で生存できた地方の会社とでは経営に対する危機感やハングリー度合いが違っていて、これはとてももったいない話。沖縄の99%が中小零細企業というデータがありますが、沖縄の多くを占める中小零細企業の経営者が都市部のような現代的な経営力を付ければ、沖縄全体が大きく変わると考えました。」

「1億円儲かる」ではなく「1万人のくらしを変える」に価値がある

「1億円儲かる」ではなく「1万人のくらしを変える」に価値があ

ここで、SCOMのビジョンを振り返る。

藤本さん「中小企業が収益を上げる力をつければ、社員への還元率も上がる。10社の経営支援が成功すれば、その社員の給料が15万円から20万、30万に上がる。するとその家族の暮らしも変わる。それが掛け算となって最終的に1万人くらいにインパクトを与えることができると考えました。」

SCOMのビジョンは「沖縄で1万人のくらしを変えていく。」こと。そして「10年でより良い経営ができる会社を100社生み出し、5000人の従業員所得を引き上げ、1万人の生活を豊かにすること。」だ。

藤本さん「『1万人』というのが現実的かどうかを考えた時、僕は“いける”と思いました。そして、いけると思える目標が『1万人』というのはやりがいがあるなと。上間さんと比嘉さんが乗ってくれたのも『1億円儲かりますよ』ではなく『1万人の暮らしを変える』ということに価値を感じてくれたんだと思います。」

比嘉さん「正直、『1億円稼げる』という儲け話だったら僕はやらなかったですね。それなら自分の会社の価値を高めて株を上げることに集中した方がいいいですから。実際、設立の話を進める上で、誰も自分の利益について言わなかったんですよ。それぞれの本業もありますし(笑)。それよりも、中小零細企業の経営者が底力をつけるというところに、やりがいを感じました。」

単純に前例がないということも挑戦しがいがある

上間さん「僕もそうですね。思想もそうですし、単純に前例がないということも挑戦しがいがあると思いました。色んな会社の経営を見ることができるのも、面白いと思っています。」

中小企業が楽して成長することはない

取材中、それぞれが互いの話を聞きながら共感するポイントなどを見つけ、大きくうなずいたり話を広げたり、とても自然で楽しそうだったのが印象的だった。

わたしは取材の中で「中小企業が楽して成長することはない」「前に進む時も苦しい」という言葉にはっとした。前進するにも、覚悟が必要なのだ。その言葉を語るまでに、どれだけ苦労があったのだろう。そして、それを乗り越え、そこから沖縄全体を良くしていくビジョンを掲げられるバイタリティに本当に驚いたし、心から3人に憧れた。

10年後、沖縄で1万人のくらしが変わることを、今からとても楽しみに思う。

三好 優実 - 2019/12/13