未来のために必要な「教えない協育」。非認知能力を磨くfrogsプログラムとは
2024年06月24日
TweetAIの急速な発達により近年、世界中の教育現場で「非認知能力」が注目されるようになったことはご存知だろうか。
非認知能力とは、知能検査で計れる「認知能力」とは違い、テストや数値では計れない「やる気」「忍耐力」「協調性」など、人間としての生きる力の総称だ。
株式会社FROGS(フロッグス)代表の山崎 暁(あきら)さんは、16年前より非認知能力に特化した独自のプログラムを作り、学生の人財育成を行ってきた。
そんな山崎さんが現場で得たノウハウや知見を収録した本『教えない勇気 ~非認知能力を磨く 沖縄発・frogsプログラム~』の出版が決定。「教えない“協育”」を掲げ、非認知能力向上のための協育を学べるこの本は、2024年7月1日に全国の書店に並ぶ予定だ。
※協育(きょういく)=造語。学校、家庭、地域社会が連携し、それぞれの教育機能を相互に補完・融合しながら、協働して子どもを育てていくこと。
出版にあたり、非認知能力の必要性や本の内容について話を伺った。
<取材・執筆・撮影=三好優実>
「人財育成を通じて未来をつくる」会社の取り組みとは
三好 この度は、ご出版おめでとうございます。早速ですが、株式会社FROGSおよび、frogsプログラムの取り組みを教えてください。
山崎さん 弊社はざっくり言うと「人財育成を通じて未来をつくることの全てをやっている会社」です。株式会社でありつつも、事業収益の内訳を見ると、協賛金や個人寄付が約半分を締めており、NPOと株式会社の特性が混在しています。日本にはまだ普及していませんが、ソーシャルIPO(企業が上場する際、収益性だけではなく、事業がもたらす社会的なインパクトを重視するIPO)のような位置づけです。
具体的に言うと、株主からお金をいただいたら「あなたの代わりにこの分野では、いつまでにこれくらい未来を変えますよ」というお約束をリターンとします。そのリターンとして、より良い未来をつくるためにやっている活動のひとつが「frogsプログラム」。一言でいうと、学生を対象とした人財育成を完全無料で行っているプログラムです。
三好 frogsプログラムとはどのようなものですか?
山崎さん 主にアントレプレナーシップを中心に、非認知能力を向上させるためのプログラムです。関わる大人たちは「教えずに気づかせる育成」をポリシーに、問いをデザインすることで、学生の主体性や言動習慣を進化させていくなど、、従来の〇✖で判断する教育とは真逆のアプローチを行っています。
三好 アントレプレナーシップと非認知能力は、本のテーマになっている題材ですね。「アントレプレナーシップを中心とした非認知能力向上」とは具体的にどんなものでしょうか。
山崎さん 「非認知能力」とは大まかにいうと、やる気、忍耐力、協調性、自制心など、数値では計れない「社会性に関係する力」です。ただその中身についてははっきりと定義が定まっていません。ですのでfrogsプログラムではまず、非認知能力の中身を22個に分類・定義づけしています。中身は諦めない力、課題解決力、リーダーシップなど様々ありますが、その中のひとつに「アントレプレナーシップ」が入っている感じですね。
ちなみにアントレプレナーシップは「起業家精神」と呼ばれれていますが、弊社では「従来の慣習やルールに流されることなく、常により良い未来のために最善策を見つけ、実際に周囲を巻き込みながらイノベーションを起こす力」と定義づけています。
本を通して「教えない協育」ができる大人を増やしたい
三好 改めて、今回出版される本について教えてください。2年前から執筆されているとのことですが、本を出すきっかけはあったのでしょうか。
山崎さん 実は、最初から出版しようと思って書きはじめたわけじゃないんです。現在frogsプログラムは全国展開に向けて、県外のオーガナイザーにライセンスとノウハウを提供していますが、全国各地から問い合わせが増えてきたため、ノウハウをまとめたテキストブックを作ろうと思いました。
三好 書いているうちに何か変化があったのでしょうか?
山崎さん 時代がどんどん変化し、テクノロジーが急速に進化するフェーズに入りました。AIが得意とする答えが明確なものよりも、数値で表しきれない人間のスキルのようなものが問われる時代になっていくと思ったんです。国もスタートアップ推進5ヵ年計画を発表し、文部科学省は、アントレプレナーシップ教育を小中高でも推進すると発表しました。
16年前はアントレプレナーシップという言葉が馴染んでいなかったし、起業=危ない、子どもたちを近づけちゃいけない、と考える大人も多かったので、本を出版するなんて考えてもいませんでした。だけど今なら、16年間培ったノウハウを出せば、気になる方がいらっしゃるんじゃないかなと思い、一般の人向けに書き直すことにしたんです。
三好 そうだったんですね。本にはどのようなことが書かれていますか?
山崎さん まず第1章で「非認知能力とはなにか」と、その必要性についてたっぷり書きました。結構なページ数を割いて「非認知能力」について説明しているのには、理由があります。非認知能力が必要だということを話すと、学校の学びを軽んじていると思われることがありますが、全然違うということを最初に伝えたいんです。
むしろ、非認知能力が高い人が「勉強しない」ってことはあり得ないんですよ。なぜならリーダーシップや自分で考える力、諦めない力を持つ人が、勉強だけしないってことはあり得ないから。むしろ止まらないはずなんです。たしかに満遍なくいい点を取ることは辞めるかもしれませんが、自分の興味分野をめちゃくちゃ深堀りするような知識欲が着火する。だから結果としてプログラム受講者には東大や早稲田、慶応に合格する人が毎年のように出るんです。勉強しろって言うから嫌いになるだけであって、非認知能力を磨けば勝手に勉強するようになるから、その方が親御さんも先生も楽ですよっていう話。そのことをまず伝えたいから、非認知能力とはなにかをしっかりと説明しています。
三好 なるほど。2章以降ではどんなことが書かれていますか?
山崎さん frogsプログラムの理念や具体的な内容、非認知能力の細かな定義づけをはじめ、「オーガナイザーはどんな人か」を通して完璧な大人はいないということを伝えています。学生たちの事例もいくつか紹介していますが、年齢や境遇がバラバラな学生をピックアップしているので、どの年代の親御さんも参考にしていただけると思います。
三好 やはりプログラム受講前と後とでは、学生は変わっていますか?
山崎さん かなり変わります。それこそ進路先として予定していた大学を直前で変更して、周囲が想像もできない上位大を受験する学生や、いい意味で親の言うことを聞かなくなる学生も現れます。今までいい大学に行って大きい企業に就職する道だけを目指して生きてきた学生が、突然海外行きたいって言い出したりするので、レールの上を走ってもらいたい親御さんは困るかもしれません(笑)。
三好 凄い変化ですね。本の読者は、教育関係者や子育て世代の親御さんを想定していますか?
山崎さん そうですね。メインターゲットはそうですが、実は企業内研修の需要も少しずつ増えてきているので、今の働き方に満足していない人や経営者の方にも何かしら感じてもらえる内容にはなっていると思います。
三好 最後に、読んだ方に、どんなことを感じてもらいたいか教えてください。
山崎さん 読んでもらうと、非認知能力を身につけることによって人がどんな風に変わっていくかが分かると思うんですよ。その様子を感じてもらうことで、非認知能力を育む場合、どれだけ「教える」という行為が効果を薄めてしまうかを知って欲しいです。学校って正解を教えちゃうじゃないですか。だけど社会に出て、なにかを成し遂げたいと思った時、いろんな判断・決断をしなきゃいけないし、色んな人が色んなことを言ってきた時に全部聞くわけにはいかない。教える側の大人たちに、非認知能力がいかに大切かを感じてもらい、「教えない協育」ができる大人を増やしたいです。
三好 ありがとうございました!
本『教えない勇気 ~非認知能力を磨く 沖縄発・frogsプログラム~』は7月1日より全国で販売予定。Amazonで事前予約も可能なので、気になる方は事前予約しよう。
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三好 優実 - 2024/06/24
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