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ヤンキーの若者たちの生活、そして沖縄の建設業
彼らと走って、働いて、飲んで、わかってきたこと

2019年03月23日

 沖縄の、いわゆる「ヤンキー」と呼ばれる若者たちを、参与観察、つまり行動を共にしながら調査を行なった社会学者がいる。社会学博士の打越正行さんだ。暴走族のパシリになったり、バイクの後部座席に乗せてもらったり、まさに体当たりの「飛び込み」調査を敢行したのだ。

 そんな打越さんによると、そういった若者たちの半分以上が建設関係の仕事に就いているという。建設現場でも共に汗を流したという打越さんに、建設業界の実情や従業員たちの厳しい上下関係の現実について、お話を伺った。


打越正行さん

――暴走族・ヤンキーの若者と行動を共にしたのは、どんな狙いがあったんですか?

 通常は、研究者が非行少年の話を聞くときは行政の紹介などを経て少年院などの施設で当事者の話を聞くことが多いです。

 しかし、少年院では反省して改善がみられないと処遇期間が延長される可能性があります。いつ出れるかわからないという意味では刑務所よりも厳しい場所です。
そんな中で、教官の仲間だと思われているであろう私たち研究者には、「反省しています」とか、「(一緒にトラブルを起こした地元の)先輩とはもう会いません」と言うしかありませんよね。ただ、沖縄ではそんなことは現実的に不可能です。

 私はそんな少年たちが、日常的に過ごしているところを見たり、普段している話を聞きたくて、58号線のコンビニ前などで彼らに声をかけました。

 調査を始めた2007年は、今でいう「荒れる成人式」が毎晩あるようなイメージで、特攻服を着た暴走族の若者たちが58号線を走り回り、週末には何百人も集まっていました。
 その後、暴走族で活動していた若者の多くは、建設関係の仕事に就きました。そこで、その内部の人間関係にまで踏み込んで現実を知りたいと考え、2008年に約1ヶ月半、建設会社の沖組(仮名)で暴走族上がりの若者たちと一緒に働く機会をえました。

 私の狙いは、そのような彼らの日常会話や普段の生活から沖縄を描くことでした。


昼休み中の建設現場

――建設業従事者の上下関係は、他の業種よりも厳しいのですか?

 沖縄の建設業界の上下関係は、他府県や他業種と比べても厳しいものです。

 地元の暴走族の若者のほとんどが同じ建設会社で働くので、10代から続く先輩と後輩の関係はそういった仕事の現場でも続きます。

 後輩は先輩に呼び出されては、さまざまな雑用を頼まれます。
 例えば、現場号(建設業で移動に用いる車)で先輩が通う自練(自動車教習所)へ送迎をしたり、深夜の飲み会の運転代行、そしてバイクのメンテナンスなど、先輩たちの生活の世話まで後輩が請け負う状況がありました。もちろん、ほとんど報酬はありません。

 このような理不尽ともとれるような上下関係というのは、10代の頃はどこにでも存在していますが、通常は20代、30代になるにつれて軟化していきます。しかし、沖縄の建設業では20代、30代になっても上下関係が終わりません。正直なところ、これがかなりシンドいようでした。
 これは、絆というように美化することでもなければ、時代遅れだといって簡単に葬りさるものでもありません。

 この関係は、ある意味必然とも言える状況があって、作り上げられてしまったものなんです。

――どんな状況が、この仕組み・上下関係をつくったのでしょうか?

 この上下関係は、建設会社が生き残るためにつくられた人間関係と私はみています。

 建設業界というのは、受注して初めて仕事が発生するので、他の製造業などと比べとても不景気に弱い業種です。受注がなければ仕事もなく、業績が悪くて給料が支払えない中小零細企業は、すぐに倒産してしまいます。

 そんななかで、私が調査に入っていた沖組(仮名)は「終身雇用」とでもいえる仕組みができていました。

 例えば、従業員が刑務所から出てきても、すぐに声をかけられます。また罰金が払えず、労役所(封筒張りなどの軽作業を科される施設)に入らなくてはならない状況に陥った場合にも、社長が「肩代わりするから、うちで一生懸命働け」と言ってくれます。このように何があっても生涯にわたり働くことのできる「終身雇用」とでもいえる仕組みがありました。

 これはセイフティネットのようにも見えますが、低賃金で生涯にわたり働かざるを得ないという点では過酷なものでもありました。

 資格も貯金もない人たちからみれば、職を失うことは、生活の形を失うことであり、この「終身雇用」の仕組みはとても価値のあるものでした。

 雇用する側の建設会社からみれば、業績が悪いときには給料の支払いを遅らせるなどの融通が利く従業員は、とても使いやすい労働力だったと思います。
不景気で建設会社がたくさん倒産した中で生き残ったのは、そんな「融通の利く労働力」としての地元の後輩をつかまえた会社でした。

 また、現場レベルでは先輩と後輩がコンビになることが多く、後輩はその先輩の「仕事の癖」のようなものに合わせて仕事に慣れていきます。
 そうなると、このコンビ以外ではあまり効率的に仕事が回らなくなったりするんです。例えば、先輩が「とれ」と指示を出しても、最初のうちは「はずす」という意味か、それとも「持って来い」という意味かがまったく分かりません。私も間違えて呆れられたことがあります。しかし、慣れてくると、それはわかるようになります。

 お互いにお互いがいないと仕事にならない状況も、上下関係を作り出す要因になっていました。


建設現場の休憩時間

――この関係性から抜け出すことはできないのでしょうか?

 なかにはうまく自分の道を拓いた方もいますが、現実的にはとても難しいものでした。

 いい学校、いい会社といった標準的なライフコースとは別の、一種のヤンキーのライフコースみたいなものがかつての内地にはありました。
 早くに子どもを産んでガテン系の仕事で生計を立て、先輩になって後輩を引き連れて独立というのが憧れでした。
先輩後輩関係にうまくハマれば、もうひとつの幸せの形が見えていたんです。

 ところが、現在の沖縄では、30代はなかなか後輩が入ってこないので自分が先輩になれず、とても辛い世代になっています。

 私も調査場面でパシリを体験しましたが、先輩による理不尽な要求であっても、先輩を敬う態度をとっていないと先輩の逆鱗に触れることがあります。例えば、後輩による先輩の悪口は、めぐりめぐってなぜか本人に伝わります。先輩も自らが理不尽な要求をしている自覚があるからなのか、後輩を問い詰めるとたいてい「自白」させることができます。
 このようなギクシャクした関係が終わることなく続いていたのが、2000年代の沖縄のヤンキー、建設業に就く若者たちの現実でした。

 パシリという役割を終えることのできない30代は、10代の時から自分への評価が変わらず、自分が成長している実感を得られないため、将来展望に乏しい状況に陥っていました。
 それでも、先ほども話したように、先輩に従うメリットがあると長く考えられてきて、後輩を使える見込みがあるため、その関係から抜け出す選択を突然行うことは至難の業でした。このように、建設業界では先輩と後輩の上下関係が基盤であり続けてきました。

――沖縄の建設業界が良くなるには?

 建設業協会や県内の政治家が連携して、建設業における受注の不安定さを解消することがカギとみています。

 かつて沖縄県の建設業協会の会長を長く務めた国場幸太郎さんは、県内企業の優先受注と受注をならすことを政治家に陳情しています。現場の労働者の生活をまもることを強く意識されていたことがわかります。

 戦後、基地建設など大きい案件は、いち早く入ってきた内地のゼネコンに持っていかれてしまいました。なにもないところから立ち上げたばかりの沖縄の会社は、内地の大手ゼネコンと異なり完工実績がなかったために入札資格がなかったのです。

 ただしこの理由は後付けでしょう。内地のゼネコンは沖縄の中小零細企業から収奪する不公平な仕組みをこのように整えました。「復帰」前後に基地を内地から移設した構図と重なります。
 沖縄の建設業で働く人びとの生活をまもる規制が欠かせないと思います。かつて国場さんが要求した完全県内受注、つまり建設業界の「地産地消」を実現させること、県内の建設業が補助金や景気に大きく左右されずに自立的にまわせる経済基盤を整備することです。


七つ道具と建設資材

 ところで内地の建設会社が持っている免許は通常1つくらいで、仕事ができ指示を出す人間と、単純作業の日雇い労働者で構成されています。
 一方、沖縄の建設会社は免許をたくさん持っています。とびも大工も、解体もと、複数の免許をもつ会社が多いです。建設現場の仕事を何でもやらざるを得ない状況でしたので、沖縄で働く従業員の能力はとても高いはずです。
 しかし、そのような能力や経験のある人たちが失業するたびに、その蓄積はリセットされました。沖縄の基幹産業である建設業で働く能力の高い従業員が安定的に働けること。それは従業員だけでなく、その世帯(離別した家族を含む)、そして将来にわたり安定が見通せることがとても重要だと思います。


[プロフィール]
打越 正行(うちこし まさゆき):社会学者
広島市で、そして沖縄で暴走族のパシリとして活動しながら、社会調査をすすめてきた。沖縄では暴走バイクの後部座席に乗せてもらい、またある時は建設現場でともに汗を流した。地元の中学生が10年かけて一人前になるのと同じ時間をかけて、キャリアを積み重ねた。

[打越さんの単著「ヤンキーと地元」好評発売中!]

単著「ヤンキーと地元」(筑摩書房・2019年)


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翁長奈七 - 2019/03/23