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今の自分を見つめるために「終活」がある。
終活カウンセラー榊田さんが語る『死』への向き合い方とは

2019年05月24日

「終活」という言葉を聞いたことはあるだろうか。「終活」とは、読んで字の通り人生の“終わり”のための活動だ。

終わるための活動と聞くと、どうしてもネガティブなイメージが湧く。筆者も「終活とは死を意識する人が行うもの」だと思っていた。だが、沖縄県内で終活を専門とする終活カウンセラー「榊田(さかきだ) えみ」さんに出会い、まず第一印象に驚いた。「終活」という一見ネガティブそうなフレーズとは裏腹に、とても明るく柔らかく、言葉が綺麗な女性なのだ。

そんな榊田さんは「“終活”は生まれた時から始まっている」と話す。今回は、榊田さんに終活の本質と、榊田さん自身が制作から発行までを請け負う自分史について話を伺った。

be+(ビープラス)の発行する自分史ムービー・マガジンとは

「正直、制作費用は赤字です(笑)」と榊田さんは笑った。

榊田さんが運営するbe+では、自分の生涯を記録する「自分史ムービー・マガジン」を制作している。この自分史はいわゆる自主制作の自分史とは異なり、プロのインタビュアーが丁寧に話を聞き、カメラマンが撮影を行いムービーもしくは一冊の本にするというもの。

ムービーでは収録DVD2枚とデジタルフォトフレームがセットになっており、操作も簡単。年配の方から孫やひ孫まで、ひとつの電子機器で残し続けることができるという現代的なスタイル。代々受け継がれることにより、会ったことのない世代になっても、声や映像が残るというのはとても貴重なものだ。

マガジンでは自身の人生が一冊の本に仕上がる喜びがある。自身が大事にしているものや考えが詰まった一冊の本を、人に配ったり次世代まで残すことができるというものだ。

作ったものが後に残るというだけでなく、自分の人生を語る楽しさも、自分史づくりの醍醐味だと榊田さんは語る。

榊田さん「最初は皆さん恥ずかしそうにされることが多いんですけど、だんだん楽しそうにされるのが嬉しいです。ご自身の人生や考えをしっかり話す機会って普通の人はなかなかないので、自分の人生を振り替える良い機会になるのだと思います。話を伺っているだけで、元気になる方もいらっしゃるんですよ。」

自身の人生を振り返ることにより、改めて自分の考えや大事にしていることを感じ、また、それを人に聞いてもらうことで新たな自分にも出会えるのだと言う。

ーどんな人が自分史を発行するんですか?

榊田さん「今はやはり年配の方が多いですね。フォトフレームは機械が苦手な方でもボタンひとつで再生できて、年配の方でも使いやすいんですよ。依頼はご本人よりプレゼントとして贈られる方が多いです。子どもさんからご両親へとか、会社の社員さんから社長さんにプレゼントしたり。あとは若い人が自己分析の一環として、制作を希望されることもあります。」

ー若い人もいらっしゃるんですね。

榊田さん「まだ少ないのですが、います。私は産まれた時から『終活』が始まっていると思っているんです。婚活は結婚したい人しかやらないし、就活は就職したい人しかやらない、けれど終活は全ての人に訪れることなんです。特に『死』はネガティブなものと捉えられがちで、『まだ早い』と思っている方が大半だと思いますが、『死』に早い遅いはあまりないんですよ。いつ何があるか分からないものなので。」

そう話す榊田さんは、以前はアナウンサーをとして活動していたのだそう。終活に興味を持ったのは、ある出来事がきっかけだった。

「終活」をやろうと思ったきっかけは、祖父・祖母の『死』

榊田さん「考えるきっかけになったのは、おじいちゃんとおばあちゃんの『死』でした。」

父方の祖父・母方の祖母は、亡くなり方が対照的だったと話す。

榊田さん「私の両親は関西在住ですが、関東出身の父の祖父母は茨城県に住んでいました。父は一人っ子の男性で恥ずかしさもあったんでしょうが、両親との会話が少ないタイプで、離れて暮らしているのにお互いの近況を報告しないような親子関係。祖父が体を壊したことをきっかけに、両親の住む大阪に祖父母をよんだのですが、年をとってからの新しい環境の中、祖父の体調は良くなることもなく他界しました。祖母は引っ越しや祖父の死のストレスで認知症の傾向がみられるようになりました。日頃から家族で話していないこともあり、祖父のお葬式をするにも誰に声をかけていいのかわからず参列者はなく、遺影写真に使えるようなものもなくぼやけた古い写真を使い、思い出話も少ない寂しいお葬式となりました。」

父方の祖父が亡くなった翌年、母方の祖母を亡くした榊田さん。それは一年前とは対照的な最期の迎え方があったそう。

榊田さん「祖母は難病を患っていました。祖母は明るく前向きな性格だったので、病気が分かってからも自分で病気について調べ、延命措置に関しても『最後はどうして欲しい?』という会話を家族でできるよう関係ができていました。また懐かしい思い出話とともに身の回りのものを整理し、さっぱりと片付いた部屋を残して入院し最期を迎えました。お葬式には祖母のお気に入りの写真を飾り、好きだったものをそっと棺に収め、集まってくださった参列者とともに涙ではなく笑顔で送りました。葬儀の日に不似合いですが『あっぱれ』という言葉が浮かぶような最期でした。」

榊田さんは、対照的な2人の死を間近にしたことで『明るく最後を迎えること』は、とても大切なことだと感じたのだそうだ。その出来事がきっかけとなり、終活カウンセラーの資格を取得し、現在に至る。

榊田さんが「終活」を通して伝えたいこと

榊田さんは「死に対するイメージ」を明るくしたいと話す。

榊田さん「学校の卒業や彼氏との別れ、会社の退職など、日常に『終わり』はたくさんあります。私は、小さい『終わり』の積み重ねが人生なのだと思っています。『結婚したい』『子どもが欲しい』『社長になりたい』など、人には色んなゴールがあると思いますが、自身の最後を考えることで、いつまでに何をした方がいいのか逆算できる。終活をすることで、『いま』を大切にできるようになるんですよ。」

「いつかやる」という人は絶対にやらない。『死』と向き合った榊田さんだからこそ「終活」に今、全力に取り組むことができるのだろう。

榊田さん「悲しい時って、考えられないことが多いと思うんです。「終活はまだ早い」と考えている人が多いと思いますが、いざ倒れてしまった時に「どうしたい?」「写真撮っておく?」なんて言えませんよね。大事なのは本人がどう考えているのかを家族が知っておくことだと思うんです。そのためにはまず、普段から会話を持って欲しい。自分史をつくることで、会話のきっかけになったり、こんな想いを持って生きてきたんだと再認識し、お互いをわかりあえる手段にして欲しいと思います。」

榊田さんは、自分史のほかにも講演会やセミナー、終活応援プロジェクトの運営など、様々な活動を行っている。様々な活動を通して、死に対して忌み嫌うイメージを払拭し、今を生きるためのツールとして「終活」を行って欲しいと語った。


◆終活応援プロジェクトHP
http://syukatu.okinawa/personal-history/

三好 優実 - 2019/05/24