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沖縄に4年住んで分かったEC業界の課題とその未来

株式会社EC-GAIN  村田 薫

2016/06/7

murata Ryukyu Journalをご覧になっているみなさま、はじめまして。株式会社EC-GAIN(イーシーゲイン)の村田と申します。私は2005年に楽天市場に入社してから今日まで、また沖縄では2012年から約4年間ECコンサルタントとして活動してきました。2016年5月、沖縄のEC産業の課題解決及びEC環境の改善を目的にスタートした会社がイーシーゲインです。いわゆる内地人(ナイチャー)である私をあたたかく受け入れてくださった「沖縄」。そんな沖縄にとって、将来重要な産業になるであろうEC業界の事を色々書けれたらと思い、寄稿することとなりました。

沖縄のECポテンシャルを引き出せていない最大の理由

 沖縄のEC産業の課題として、先ず最初に挙げられるのが”圧倒的な人材不足”です。これはすべての地方に言える事なのかもしれませんが、この人材不足こそが沖縄(ひいては地方)のECポテンシャルを引き出せていない最大の原因だと考えます。まず、EC産業に必要な人材は、業態に関わらず次の2種類です。

①ECおよびWEBマーケティングのノウハウを持った人材

②WEB系スキルを持った人材

 

 両者は「ニワトリと卵」の関係なので、どちらかが欠けてもいけません。

 

①ECおよびWEBマーケティングのノウハウを持った人材について

 沖縄のEC産業はまだまだ発展途上のため、そもそも「ECを伸ばした経験(ノウハウ)のある人材」つまり、叩き上げのEC人材が少ないのは仕方ありません。また、県内において「EC支援」に主軸を置いた企業が少ないために、直接的にノウハウを得られる機会も多くありません。
 一方で、県外のEC支援企業を活用されている事業者様もおられますが、コンサルティングや相談といった類の支援においては、物理的距離は心理的距離を生みやすいと感じています。すべての事業者様が「インターネットを介したコミュニケーション」を「面と向かって話せるコミュニケーション」と同等に捉えられないという心理が働き、経済的理由だけではなく県外支援業者を積極的に使えていないという状況が生まれています。そういった背景から、今はまだ”ECおよびWEBマーケティングのノウハウを持った人材”が生まれにくい環境であると言えます。

 

②WEB系スキルを持った人材について

 実際のところ沖縄のWEB系人材は「全然いない」というわけではなく、WEB系の技術を身につけられる専門学校等の数も決して少なくありません。お隣であり、都道府県別の人口数順位でも1ランク上の鹿児島と比べてもその数はむしろ多いはずです。さらに沖縄県もIT産業の振興には積極的で、数年前からインフラの整備や人材育成には取り組んでいます。その結果、大手広告代理店に紐づくWEB制作会社やコールセンター業務を請け負うIT系企業の雇用は拡大しており、注目もされています。

2万6000人の雇用を生み出した沖縄県のIT産業振興策

 しかし、大手企業の誘致が進む中で、県内のWEB系人材の多くは、内地の大手企業のニアショアオフィスに取られてしまい、EC業界にWEB系人材が流れてきづらい構造が出来ています。もちろんEC業界側にも問題はあり、今はWEB系人材に沖縄のEC業界が”魅力的”だと思ってもらえる根拠が無いという点です。そのような状況では、企業はEC事業者ではなく、制作をWEB制作会社さんにお願いする事になります。しかし、ECノウハウが無い制作会社さんに依頼し続けても、思ったように売上が伸ばせないといった事例が良くあります。以上のことから、県内企業が内製でも外注でもECを伸ばすための人材を確保する事は困難な状況だったと言えるわけです。

 

EC事業を拡大するためには「よそ者」を使い倒せるか

nahakuukoPhoto by:中野 行男

 

 では企業は一体どうすれば効果的にEC事業を拡大するための人材を獲得できるのでしょうか。その答えはただ1つ、「よそ者」を上手く使う事です。沖縄には現在多くの内地人(ナイチャー)が移住してきていま す。私の周りでも県外からの転入者は多く、UIターンの流れはできつつあると肌感覚で感じています。また、「自らの意思で」沖縄に移住してきているナイチャーの中には、WEB系スキルを持つ人材は割合として多いと思います。実際、場所に制約の無いWEB系の仕事はUIターンに適しており、プロブロガーとして著名なイケダハヤト氏の「まだ東京で消耗してるの?」に代表される地方移住のブームも確立を得ていますので、今後この流れはますます加速するでしょう。沖縄に移住してきている「人材」のスキルをこれでもかと言うほど利用し尽くす事が、効率的かつ、加速度的に沖縄のEC産業を拡大させられるかどうかが分かれるのです。

 

【買い手の視点を持つ人材が売り手側に必要な訳】

 沖縄に移住してきている方達は、それぞれ何かしら沖縄に「魅力」を感じています。マーケティングにおいて「顧客視点」は非常に重要な観点なのは言うまでもありません。統計が示す通り、現在、ネットショッピングを行うユーザーのほとんどは大都市圏の人であり、ECを伸ばそうとする以上、大都市圏のお客様を対象にマーケティングを行わなければなりません。

地域、居住都市規模別の直近月におけるインターネットショッピング利用比率

 大都市圏にて生活をしていたビジネスパーソンは、ECにおいて実際にネットショッピングをする「客」の視点を持っており、さらに沖縄の「魅力」を分かっている人々と言えるわけで、それを使わない手はありません。彼らが「売り手」側にまわり、沖縄の魅力をwebを使って全国とコミュニケーションしていく。それこそが沖縄のEC業界が抱える人材不足の解消方法であると考えます。

 

【”パイの奪い合い”ではない”パイの拡大”を生むために】

 既存の「沖縄物産品」を売る際に、沢山の事業者が同じ売り方をすると、市場は飽和状態になってしまいます。その状態は、ネットショップユーザーをげんなりさせ、沖縄の物産品市場全体を減少させてしまう原因にもなりかねません。

 どこのコンビニに行っても「梅干し」「昆布」「鮭」のおにぎりしか売っておらず、メーカーもすべて一緒なら、コンビニでおにぎりを買う機会は減ると思いませんか。そういった状況が現に「沖縄の物産品EC」では起きているのです。その原因は、事業者側が「沖縄」の価値や魅力を固定化しすぎているからだと考えます。

 先ほどのコンビニの例でいうと、店長は皆「お客様は梅干しと昆布と鮭を求めている!実際にその3種類が売れているのだし、それ以外のおにぎりは大して魅力が無い」
として、おにぎりの品揃えを変えない状態です。そのままでは、お客様が「コンビニのおにぎりはどうしても必要な時にしか買わない」といった状況を生み出し、買い物というアクションが持つ「楽しみやワクワク」という体験価値は生み出せません。結果的におにぎりは店の片隅で売られている「乾電池」や「ストッキング」といった「急に必要になったから買われる」だけの存在になってしまいます。

話を戻しましょう。

 既存の沖縄の物産品に頼っているこの状態は、ややもすると超大手企業が資本力を武器に固定化された人気商品を「最安値」「最短配送」で販売し、これらを扱う小売の既存事業者は市場シェアを奪われ閉店に追い込まれるという事態を、将来的に生み出しかねません。
このように“市場環境が短期間の間にガラッと変わる”というのはEC業界のみならず、珍しい話ではありません。小売流通業界で個人商店の時代からGMSの時代に移り変わった時のように、EC業界においても近年その流れは確実に起きています。

 そのような「残念な未来」が訪れないようにするためには”既存の商品の新しい価値を知ってもらう”事と”新しい価値を持った商品を生み出す事”です。どちらも言葉にすると月並みですが、こういった継続的拡大が必要なムーブメントを起こせるのがECの素晴らしい部分であり、沖縄のEC産業が発展するためには必要不可欠な活動です。今後この動きを拡大させるためには「県内大手メーカーのECを使ったWEBマーケティングの活発化」と「中小EC店舗によるコミュニティ醸成」の2つを進めていかなければなりません。大手メーカーこそが自社商品の価値や魅力を固定化せず、時代とともに変化させ、それをコミュニケーションによってユーザーに伝えていく必要があります。結果的にはその活動が「陳腐化せず、いつまでも愛されつづける商品」を生み出すのです。

 他方で、中小EC店舗は「商品」という「物」に捉われずに「お買い物」という体験そのものの価値を創り出していく事が重要です。
それが結果的に「お店のファン」というコミュニティを創り出し、物に左右されない店舗運営を可能とさせます。
 一見、相反する活動のようですが、それら両者の活動が結果的にEC市場全体を拡大させ、パイの奪い合いではないパイの拡大を生み出す結果となるのです。
どちらも簡単な事ではありませんが、だからこそ取り組む価値があり、それができている企業は「強い」のです。

 

【大手企業と手を組む事で得られる知見やPR力】

 近年叫ばれている”地方創生”。
国や行政で様々な取り組みが行われており、それに伴う予算も多く使われています。
これがブームであり一過性であるといった議論も少なく無いですが、我々地方にいる身としてはそんな事はまったく関係ありません。私個人の意見としては一過性だろうがなんであろうがそのムーブメントは思い切り利用したほうがいいと思います。

 なぜなら、それは全国においてECがこれだけ発展した背景には、地方の中小企業がECを活用し大復活を遂げた、というようなネットショップドリームが数多くあるからです。
そもそもECと地方創生は非常に相性が良いという歴史的観点と、ブームに乗った打ち手を取る事で大手メディアなどを”巻き込んだ”広報活動がやり易くなるという経済的観点とがあります。
この2点から、これからECの売上拡大を図りたい沖縄の企業においては大手のECモールは絶対に活用するべきだと思います。楽天市場では「地域活性部」といった、独自で地方創生に取り組むチームが存在しており、沖縄にもそのマンパワーを割いています。
また、これら「ECを利用した地方おこし」をミッションとしているチーム(ご当地eコマース)を持つヤフーショッピング、Amazonについても今後さらにこの流れを後押ししてくれる存在になる事が期待できます。
 今後は上記のEC大手企業を”巻き込んだ”地方の成功事例がどんどん出てくるはずなので、この流れに乗り遅れる事なく今以上に積極的なブーム活用をしていくべきだと考えます。

 

沖縄のEC産業の未来に向けて

12176428Photo by:中野 行男

 

 ここまでお伝えした課題がすべてではありません。
その他で言えば”物流コストの問題””事業者の数””IT化が進んでいない運営方法”など細かい課題まで挙げればキリがありません。しかし「無い無い尽くし」を嘆いていても、コトは前には進みません。課題があるということは、そこにビジネスチャンスがあるということです。

 沖縄には沢山のビジネスチャンスがあります。今後、東京などの大都市圏からUIターンで沖縄のEC人材を獲得する活動を行い、どんどん人材を増やし、沖縄のEC産業がさらに潤いを増す、そういった業界構造を作る事が可能だと思います。また、各国の法整備などが追いつき、ドローンによる超スピード越境配送などが実現する世界になれば、立地を生かして国内EC事業者のアジア圏に向けた配送・営業拠点として企業誘致するといった事もできるはずです。

 これらは今は妄想かもしれませんが、遠くない未来で実現可能なはずです。そのためには前述した課題の解決は不可避であり、まずは目の前の問題から少しづつ取り掛かっていきます。また、当たり前ですが我々だけではこの課題は解決できません。多くの事業者様、支援業者、団体などと共にこれらの課題を片っ端から解決していければ、沖縄のEC産業はもっと発展し、将来は今よりもっともっと魅力的な島になるでしょう。そのような未来に少しでも近づくよう、私のような「よそ者」をあたたかく受け入れてくださった沖縄のためにどこまでも”使い倒されたい”と思っています。

村田薫

村田薫 (むらた かおる)
株式会社EC-GAIN  代表取締役

2005年に国内ECモール最大手の楽天株式会社に新卒入社後、楽天市場にてECコンサルタントとして楽天SHOP OF THE YEARの店舗様などを多数担当&排出。入社3年目には年間で3度の社長賞を受賞。楽天大学の講師も務める。 東京で独立後、2012年に沖縄に移住し現在は沖縄県を中心に地域密着のコンサルティングを展開。

村田薫 - 2016/06/7